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第51回会議(新聞への期待と要望、原発報道の在り方)

新聞は「情報の鑑定士」 「報道と読者」委員会

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意見を述べる(奥左から)神田安積、佐藤卓己、太田差恵子の各委員=10月29日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は10月29日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第51回会議を東京・東新橋の本社で開いた。7月に第6期委員を委嘱された3氏が「新聞への期待と要望」「原発報道の在り方」をテーマに議論した。

 京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、新聞の役割を「正しい情報を伝え、どうでも良いものははじき出す情報の鑑定士としての使命がある」と指摘した。

 弁護士の神田安積氏は「タブーをなくしてほしい。外交機密や軍需産業、原発産業には切り込めているのか」と問題提起した。

 介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は、共同通信への要望として「都会と地方や地方と地方の連携について着目してほしい」と述べた。

 鉢呂吉雄前経済産業相による「放射能をうつしてやる」との趣旨の発言を、民放テレビ局が先行して報じたことに太田氏は「先行報道がなければ、他のメディアはどうだったのか」と述べた。

 佐藤氏は「メディアが主体的に発言を批判したのではなく『批判されないはずはない』という感じで報道が進んだ印象」と語った。

 福島第1原発事故後の農作物などへの風評被害と報道の在り方について神田氏は「問題は政治、行政が発表する根拠をきちんと検証することに尽きる。それがメディアの役割だ」と指摘した。


新聞の役割と期待を提言 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第51回会議が10月29日開かれ、3人の委員が「新聞への期待と要望」と「原発報道の在り方」をテーマに議論した。

 京都大大学院教育学研究科准教授の佐藤卓己氏は、正しい情報を伝える「情報の鑑定士」の役割を新聞に期待。弁護士の神田安積氏は「タブーをなくしてほしい」と問題提起。介護・暮らしジャーナリストの太田差恵子氏は新聞の読者投稿欄を「素朴な市民の声が出ている」と評価した。3氏は7月に第6期委員を委嘱され、今回が初会議。


【テーマ1】新聞への期待と要望

情報の鑑定士に―佐藤氏 タブーなくして―神田氏  素朴な市民の声を―太田氏

初公判後の記者会見で質問者を指さす民主党の小沢元代表=10月6日、衆院第2議員会館

 ―新聞への期待と要望を。

 佐藤委員 情報社会では膨大な情報が押し寄せ、個人の処理能力を超えている。新聞の機能は正しい情報を伝え、どうでもいいものをはじき出すという熟慮のゲートキーパー(門番)だ。情報の鑑定士として、責任の所在がはっきりした言説を選び、その軽重を示す重要な使命がある。

 松本浩ニュースセンター長 共同通信が流した記事は質が保証されているという意識で報道している。「十分できていない」との批判は当然あるが、インターネットとの比較論で言えば何を知るべきなのか、という優先度を示すのがマスメディアの役割だ。

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太田差恵子委員

 太田委員 15年ほど前に遠距離介護の情報支援をするNPO法人を立ち上げた。新聞が記事を書いてくれ、社会を先取りしてくれた。また、個人的には、新聞の市民の声の欄をよく読む。素朴な声が実名で出ており、これらを大事に新聞作りをしてほしい。共同通信には都会と地方、地方と地方の連携について着目してほしい。

 神田委員 タブーをなくしてほしい。常に国家権力は市民やメディアの権利を侵害する法律を作ろうとする。原発の問題では、都合の悪い情報を隠したり、やらせを主導し、議論を封じ込める。官僚、国会議員に記者は特権的にアクセスできるが(取材対象との人間関係に影響する報道を控えるなど)心にすきができていないか。外交機密や軍需産業、原発産業には切り込めているのか。

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神田安積委員

 奥野知秀編集局長 基本的にタブーはない。ただ個人的な所感として、メディアでは取材先と親密な関係にならないと情報が取れない。信頼関係を構築する中で、人間関係に甘え、書くべき話を書かないこともあるかと思う。昔から引きずっている問題だ。

 太田委員 自分自身が物を書く人間で、書きたいことを書かないことや、取材に来た記者に「これはオフレコで」と言ったこともあった。自分としても整理しなければならない。

 神田委員 ニュースソースとの人間関係の中で書けないことがあることを明らかにすべきではないか。(タブーがあっても)メディアは読者のために、きちんと言うべきことを言わなければならない。

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佐藤卓己委員

 本多晃一社会部長 一般論としてニュースソースとの関係で書けないこともあり得るが、それを越えて読者や国民に伝えなければいけないことは書く。

 神田委員 小沢一郎元民主党代表の第1回公判後の記者会見で、政治資金問題について国会で説明責任があるのではないかと質問した記者に、小沢氏は三権分立を持ち出し、答えなかった。国民から負託された取材活動なのに、そこで質問が終わり残念だった。記者は取材対象にどのように迫るか十分トレーニングを受けてほしい。

 井原康宏政治部長 時間的制約の中で記者会見が行われている。きちんと答えない小沢氏が批判されるべきで(記者への)批判は矛先が違う。

 神田委員 (米ニューヨークで始まった)反格差デモでは、若者は既存メディアに期待できないから(交流サイトのフェイスブックなど)ソーシャルメディアに訴えているのではないか。

 渡辺陽介外信部長 デモの現場では指導者もいないし、具体的な要求もはっきりしないが、アメリカの金融資本主義やグローバリズムを見直す動きが本格的に起きているならば、注目しなければならない。

 佐藤委員 現在の新聞に望むことで言えば、夕刊はもっと読み物として意味のあるものになっていく必要があるのではないか。新聞各紙が1面で報じた重要ニュースは、その後の展開を細かく追い、夕刊を全部充てて報じれば、読み物としての意義も出てくる。

 奥野編集局長 夕刊をやめる新聞社が増えてきた。これからの新聞の勝負は読み物、解説、バックグラウンドの説明。リビアのカダフィ大佐が死亡した件も、裏の事情や殺された時の情報を詳しく知りたいとの要望が非常に多かった。


【テーマ2】原発報道の在り方

鉢呂報道に違和感―太田氏 報道遅れた説明を―神田氏  批判は主体的に―佐藤氏

一礼して経産相辞任の記者会見を終える鉢呂氏=9月10日、経産省

 ―鉢呂吉雄氏が9月9日の閣議後会見で福島第1原発の周辺自治体の様子を「死の町」と表現、その前夜の非公式な囲み取材で「放射能うつしてやる」との趣旨の発言をして、経済産業相を辞任した。

 太田委員 一連の報道には違和感を覚えた。民放テレビ局が(うつす発言を)最初に伝えたが、この報道がなかったらほかのメディアはどう扱ったのだろうか。囲み取材というものは読者には見えてこないものだ。

 岡部央経済部長 囲み取材は議員宿舎のロビーで10人ぐらいの記者で行われた。その場にいた記者に後から事情を聴くと不快感を覚えたという。ただ(情報源を明示しない)オフレコ取材か、(内容すべてが記事にできる)オンレコ取材なのか、あいまいなその場の状況を踏まえ、当日は報道を見送った。

 佐藤委員 「死の町」発言だけじゃ1本とならないけど、うつす発言が出て、技あり2本で1本という流れが嫌な感じだ。記者が主体的に発言を批判し責任を問うのではなく「批判されないはずはないよね」という空気で報道が進んだ印象がある。

 松本ニュースセンター長 最終的に鉢呂氏の政治的な資質を問うという問題意識を持ち報じた。言葉は生きもので日々悩んでいるが、今回はまさに合わせ技1本でこの人に重い権限を委ねるわけにはいかないと判断した。

 神田委員 オフレコが絡み、既存メディアの問題提起が遅れた。以前も辞任した松本龍前復興対策担当相が「今の部分はオフレコな。書いた社は終わりだから」という発言をした。オフレコが政治家に(都合の)いいように使われているのではないか。

 井原政治部長 オフレコ取材については、新聞協会が見解を示している。新事実や隠れた事実、深い事実を掘り下げて取材できるとその効果を認めている。松本氏の発言はオフレコには当たらない。

 神田委員 なぜ前夜に報道をしなかったのかの理由が、記事では書かれていない。

 井原政治部長 発言者を明らかにしないことを前提に取材しているのに、その人の問題発言をどう取り上げるのか。ここが一番難しい点だった。

 神田委員 今回の騒動では政治的な陰謀で意図的に報道されたと見る人もいる。そうではなくて、こういう事情があり、悩んだ末に報道が遅れたということを、きちんと説明することが大切だ。

 奥野編集局長 死の町発言については、さまざまな意見もあるが、私は看過できない発言だと思う。死という言葉が使われ、被災地からは悲しい気持ちを理解していないという反応が寄せられた。人を傷つける表現は許されない。

 ―原発事故後の食品からの放射性物質検出などの報道は、風評被害の懸念も指摘される。
 佐藤委員 風評被害が起こるということは、情報のゲートキーパーであるメディアの機能が試されている事態だ。国内だけではなく、海外も日本で正確な報道が行われているか見ている。

 神田委員 問題は、政治、行政が発表する根拠をきちんと検証することに尽きる。時間をかけてでも正確に分かりやすい報道をすべきだ。

 本多社会部長 8月に茨城県鉾田市産の収穫前の早場米から国の暫定基準値の10分の1程度だが、セシウムが検出された。他紙の扱いは小さかったが、当時は福島県産米の検査を控えており、必要な情報をきちんと伝えようと手厚く出稿した。

鉢呂氏の経産相辞任
 9月2日に経済産業相に就任した鉢呂吉雄氏が同8日、野田佳彦首相とともに東京電力福島第1原発の周辺市町村を視察。9日午前の記者会見で「残念ながら周辺の市街地は人っ子一人いない『死の町』だった」と語った。さらに鉢呂氏が視察から戻った8日夜に議員宿舎で受けた非公式取材の際、報道陣の一人に防災服をすりつけるしぐさをし「放射能をうつす」という趣旨の発言をしていたと、民放テレビ局が9日夕に報じた。これを契機に新聞や通信社、テレビ局が一斉に二つの発言を問題視して報道。鉢呂氏は10日夜、辞任した。
風評被害
 農水産物などの危険情報が広く知れ渡ることを背景に、直接は関係のない商品やサービスの購入、取引に影響が及ぶこと。東京電力福島第1原発事故では、放射性物質による汚染拡大への懸念から、100キロ以上離れた関東近郊で生産された農作物を買い控えたり、外国人観光客が訪日を取りやめたりする現象が発生した。日本からの輸出品も相手国による輸入規制や取引拒否が相次いだ。

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