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第48回会議(社会保障と税、裁判員裁判と死刑)

社会保障は現役に納得を 「報道と読者」委員会

意見を述べる(奥左から)姜尚中委員、橘木俊詔委員、小町谷育子委員=19日、東京・東新橋の共同通信社

 共同通信社は19日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第48回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「社会保障と税」と「裁判員裁判と死刑」をテーマに議論した。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は、社会保障制度の財源を担う現役世代に関し「なぜ(財源を高齢者に対し)拠出しているかも含め、若者や現役にも納得してもらえるよう報道してほしい」と問題提起した。

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は「(社会保障制度などの)数字合わせや財源の議論をする以上に、視点を変えて公正の原理をシンプルに話した方が一般読者には分かりやすいのでは」と述べた。

 弁護士の小町谷育子氏は「財源不足については、もう少し大きくさかのぼって長いスパンで政策を点検することも大事だ。『共働き、子ども無し』など、事例として取り上げられることの少ない少数グループも報道してほしい」と求めた。

 死刑が求刑された5件の裁判員裁判では、小町谷氏は少年に死刑を言い渡した判決に触れ「死刑を選択する基準が質的に変換している」と裁判員を務めた人の取材が今後も重要と述べた。姜氏は「死刑囚の処遇、執行の状況はブラックボックスの固まりだ」と、実態に迫る報道を求めた。橘木氏も「死刑制度廃止国がなぜ大勢なのか、分かりやすく報じては」と提起した。

社会保障と税に提言 報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第48回会議が19日開かれ、3人の委員が「社会保障と税」「裁判員裁判と死刑」をテーマに議論した。

 同志社大教授の橘木俊詔氏は、社会保障を担う現役世代向けキャンペーンを提言。弁護士の小町谷育子氏は、子どもを持たない共働き世帯などの少数派にも注目すべきだと要望した。裁判員裁判では、東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、実態が明らかにされない死刑囚の処遇など、実態に迫る報道を求めた。

【テーマ1】社会保障と税

現役世代に説明―橘木氏 公平公正の原理を―姜氏 少数者も報じて―小町谷氏

 ―社会保障と税をめぐる報道への感想を。

橘木俊詔委員

 橘木委員 シニア向け企画は非常にいい。シニアの人は関心を持って読んでくれると思う。だが、社会保障の財源を提供するのは現役の人。保険料を払わないなど、社会保障制度を拒絶している人たちに向けて「なぜ拠出する必要があるのか」というキャンペーンをやってほしい。

姜尚中委員

 姜委員 詳しい数値を記事に入れても、普通の人は難しくて読み飛ばすと思う。数字合わせや今後の財源をどうするかということ以上に、社会の公平や公正といった基本的な原理をシンプルに話した方が、一般読者には分かりやすい。政治哲学とか哲学をやっている人に「将来の税はどうあるべきか」ということを、論説で書いてもらうのもいいだろう。

 岡部央経済部長 公正の原理をシンプルにということは「若い人に納得してもらう」という話にもつながる。もう一段工夫したい。

小町谷育子委員

 小町谷委員 この問題は民主党政権になってから注目されたわけではなく、ずっと前から重要な問題だった。根っこは今までの政策の積み重ね。もう少し長いスパンで政策を点検する報道も大事だ。私のように、夫婦共働きで子どもがいない人々は「私たちは払うばかり。本当に恩恵があるのか」という気持ちもあって、何となく不公平感を常に感じている。焦点にならない少数グループのことも報道してほしい。

 ―報道姿勢について。

 飯田裕美子社会保障室長 最先端の議論だけでなく、社会保障制度の初歩的知識を持っていただく企画も始めた。現場のほころびとか、現状がどうなっているかというルポも、地方支局を含めて取り組んでいる。不公平感を持っている人たちについても考えたい。

 岡部部長 民主党の軌道修正ぶりやちぐはぐさを注意して描いたつもりだが、もっと長い期間での政策の変遷も書いていきたい。

税と社会保障の一体改革に関する関係閣僚会議の初会合を終え、記者の質問に答える与謝野経財相=1月、首相官邸(与謝野馨)

 井原康宏政治部長 与謝野経済財政担当相を入閣させた意味を書いてきた。菅首相は指導力を発揮できず、民主党内は浮足立っている。まともな税と社会保障の議論はほとんどされていない。改革案をまとめるのは、なかなか難しいのではないか。

 橘木委員 社会保険の財源を税で行くのか社会保険料で行くのかは政治家では決められないと思っている。党の中にそれぞれの論者がいるからだ。日本では国民投票は憲法改正でしか使えないかもしれないが、最後は国民に決めてもらうという問題提起をしたい。

 井原部長 ここ何十年も、同じような議論をやっていて決着していない問題。選挙で党の方針を掲げて争い、国民が選ぶのが最もあり得る方法だ。

 高瀬高明編集委員 一政党では決められないから、国会議員全部で、超党派でやった方がいいというのが論説のスタンスだが、税方式論者、社会保険料論者、マスコミ、利害団体も入った超党派で議論して、方向を出すことが必要だ。

 姜委員 本来なら税方式か保険方式か一般の人に分かるようメディアを通じて煮詰めないといけないが、国会議員や議会がそれをやらないのなら、議会や選挙を迂回(うかい)して執行権力に全部お任せ、という傾向が出てこないかを危ぶんでいる。

 ―今後の報道にどういうところが必要か。

 小町谷委員 社会保障と税を大きく変革するためのインフラといわれる社会保障と税の共通番号制。整備にいくらかかるか、どれだけの経費が削減できるのか試算も出てこない。社会保障の現場で共通番号制を入れたいと思っているのか、全然見えてこない。共通番号制を現場がどう考えるのか、ぜひ書いてほしい。

 飯田室長 番号制の是非は重要と考える。現場を見ることも検討したい。

 姜委員 日本はデフレ状態だが、1次産品やエネルギーはかなり長いスパンで見て、物価上昇圧力が加わるだろう。低所得者にとってかなり大きな負担となる。10年、20年後、物価上昇がどのくらいかを議論してやっていかないと、消費税に対するアレルギーが強まるのではないか。

 岡部部長 消費税というとすぐ税率という単純な話ではないので、複眼的な議論をしなければならないと、あらためて思った。

社会保障制度改革
 急速な少子高齢化を受け、財源などでほころびが見え始めた年金・医療・介護などの社会保障制度全般を見直す取り組み。子育て支援などの少子化対策や若年層の雇用を支援する費用をどう調達するかも課題。菅直人政権は昨年末に政府・与党社会保障改革検討本部を立ち上げ、取り組みを本格化。6月に社会保障と税の一体改革案を作成、超党派で消費税増税も含め議論したいとしている。また所得や年金など社会保障関連の情報を政府が一元的に管理する共通番号制度の導入も目指す。

【テーマ2】裁判員裁判と死刑

死刑報道深めて―姜氏 存廃国比較ほしい―橘木氏 裁判員の話貴重―小町谷氏

少年に死刑判決を言い渡した後の記者会見で、うつむき息を吐く裁判員経験者=2010年11月、仙台地裁

 ―死刑求刑の裁判員裁判5件(3件死刑、1件無期懲役、1件無罪)の報道について意見を。

 小町谷委員 少年に死刑を言い渡した仙台地裁の裁判員から「14歳だろうと15歳だろうと大人と同じ」と少年法の精神が浸透していないような発言があったが、少年法についてもう少し掘り下げた記事が必要だと思った。また死刑の執行や確定囚に関する情報が少なく、分からないことが多いのに裁判員は判断を迫られている。そうした問題点の報道にも期待している。

 橘木委員 死刑の被告と無期懲役の被告が出たのは、動機や反省の程度だということが報道で分かった。死刑の是非は国民投票にかけるような大きなテーマだ。

 姜委員 報道の在り方は良かったと思う。死刑適用のハードルが低くなっているという指摘や死刑判決は裁判員と裁判官全員一致でという提言があり、評議の密室性も取り上げている。今後も意を砕いてやってほしい。

 何を守るためにここまで死刑を秘密にしているのか分からない。ブラックボックスの固まりになっている死刑制度について議論を深めていく報道が必要ではないか。

 そもそも極刑としての死刑は何のためにあるのか、ということも死刑制度の廃止、賛成とは別に考えてほしい。

 本多晃一社会部長 5件の報道では、死刑の在り方も射程に入れた。死刑は非常に重いテーマで、被害者遺族の気持ちも踏まえないといけない。死刑の実態を深く取材するのも難しいが、当然これからも書いていかなければならない。

 石亀昌郎仙台支社編集部長 少年法の精神や裁判員裁判との関わりは今後も報じていきたい。

 竹田昌弘社会部編集委員 死刑や被告の罪の償いに向き合った裁判員経験者が多くなると、世論がどう変わっていくのかも継続的な取材が必要だと思う。

 橘木委員 死刑を廃止している国が多いと聞くが、廃止国と廃止していない国を詳しく比較した記事を読んでみたい。

 姜委員 二十数年前、初めてテレビに出たときのテーマが死刑だった。死刑は国の統治と個人の生命が対立する問題だ。裁判員は苦悩の選択をしたと思う。ただ裁判員の苦渋で終わらせてしまうと、経験者が大変なものを抱え込むだけなので、死刑制度について深く報道してほしいし、死刑執行までの過程も明らかにしていってほしい。

 小町谷委員 判決後に裁判官が感想を述べることはないが、裁判員は記者会見に応じてくれる。判断過程が少しだけ見えて非常に重要で貴重だ。また今回の死刑判決3件には、最高裁が山口県光市の母子殺害事件で示した考え方が大きく影響しているが、光事件の一部報道には問題があり、そこのところは振り返って考えてほしい。

死刑求刑の裁判員裁判
 (1)耳かき店員と祖母が殺害された事件(2)マージャン店経営者ら男性2人が殺害され、現金を奪われた事件(3)元交際相手の姉と友人を刺殺したなどとして当時18歳の少年が起訴された事件(4)妻と義母、生後5カ月の長男を殺害したとして男が起訴された事件(5)91歳と87歳の夫婦が殺害された事件―の裁判員裁判が昨年10~12月にあり、検察側は被告に死刑を求刑。(1)の東京地裁は無期懲役、(2)~(4)の横浜、仙台、宮崎各地裁は死刑、(5)は鹿児島地裁が無罪をそれぞれ言い渡した。

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