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第46回会議(厚生労働省元局長無罪と大阪地検特捜部の証拠改ざん隠ぺい事件、民主党代表選)

検察組織「検証を」 「報道と読者」委員会

 共同通信社は16日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第46回会議を東京・東新橋の本社で開き、3人の委員が「厚生労働省元局長無罪と大阪地検特捜部の証拠改ざん隠ぺい事件」や「民主党代表選」をテーマに議論した。

意見を述べる3委員

意見を述べる(左から)姜尚中、橘木俊詔、小町谷育子の各委員=10月16日、東京・東新橋の共同通信社

 東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は、事件報道について「(捜査当局の)発表に依拠せざるを得ないという限界がある気がする」と問題提起。元局長の部下が取り調べの状況などを記録した「被疑者ノート」に関する記事は「心境の変化が時系列で分かった」と評価した。

 同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は事件の背景に触れ「功名心やエリート成果主義がどれだけ検察に浸透しているのか知りたい」とし、検察組織や司法の在り方の検証を求めた。

 弁護士の小町谷育子氏は供述内容の報道について「容疑者が否認する事件は要注意。客観的な証拠と部下の自白との違いを認識していたのか」と疑問を投げ掛けた。

 民主党代表選では、小町谷氏が「社会保障や雇用がどうなるのか、(2人の主張に)違いが分からなかった」とし、生活に密着した視点を求めた。橘木氏は、小沢一郎元代表について「政治家としてどういう役割を果たしたのか総括する報道があってもいい」と求め、姜氏は「尖閣諸島の事件も問われており、政治主導とは何かについてもう少し掘り下げて議論を深めてもらいたかった」と要望した。

検察組織の検証を 「報道と読者」委員会

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第46回会議が16日開かれ、3人の委員が「厚生労働省元局長無罪と大阪地検特捜部の証拠改ざん隠ぺい事件」と「民主党代表選」をテーマに議論した。

 村木厚子さんの無罪と証拠改ざん事件に、東大大学院情報学環教授の姜尚中氏は事件報道の在り方をさらに考えるべきだと提言。同志社大経済学部教授の橘木俊詔氏は検察組織の検証を求めた。民主党代表選では、弁護士の小町谷育子氏は、政策について生活に密着した視点を求めた。

【テーマ1】元局長無罪と証拠改ざん隠ぺい事件

報道考える記事を―姜氏 否認事件慎重に―小町谷氏 成果主義の影響か―橘木氏

姜尚中委員

姜尚中委員

 ―まず全般的な感想をお聞きしたい。

 姜委員 報道の在り方を振り返った記事が一応出ているが、もっと深みがほしいし、積極的に考える記事を出してもよかった。このような事件にはおのずから壁や限界があったからと、読み方によっては言い訳とも読める。もう少し、対等報道を含め報道の在り方を考え直す記事を出してほしい。

小町谷育子

小町谷育子委員

 小町谷委員 供述に寄り掛かった報道が多い。断定した書き方ではないが、上司も部下も村木元局長が知っていたと供述している、一方、元局長は否認しているという記事からすると、やはり有罪かという印象を与える可能性がある。客観証拠が一番重要性があるという点があまり共有されていない印象だった。

橘木俊詔委員

橘木俊詔委員

 橘木委員 エリート主義や功名心が起点になって検事が証拠を改ざんしたのが事実だとすれば、ビジネスの世界と変わらない。企業での出世は業績が基準。検察は何が人事評価の基準なのか、成果主義がどれだけ検察の世界に浸透しているのか知りたいと思った。

 ―捜査段階では、可能な限りの対等報道ができたかという点はどうか。

 姜委員 昨年の逮捕段階で村木さんの無実だという主張を伝えているが、これ以上の報道ができるかどうか、私が担当記者でも自信はない。結果が無罪と分かってみると、発表に依拠せざるを得ない犯罪報道の限界があると感じる。

 稲葉智彦編集局ニュースセンター副センター長 当時大阪社会部長だった。読者の関心事を書く上で供述報道は省けないという考え方の中、容疑者の言い分を伝える対等報道を最大限重視し、直接取材する努力は事件の前の段階から続けた。

村木さん

厚労省文書偽造事件で無罪判決を受け、笑顔で記者会見する村木厚子さん=9月10日、大阪市北区の大阪司法記者クラブ

 本多晃一社会部長 事件報道は断定的にならず、あくまでその時点の捜査当局の見方であることを客観的に書くという改革があり、容疑者の言い分もきちんと書きたい。現実には難しいが、最近では逮捕後に特捜部元副部長に真っ先に面会して言い分を報じた。

 橘木委員 (改ざん事件では逮捕前に前特捜部長と元副部長の)2人がトイレで会話を交わした様子を記述している記事などは、よく取材しているとの印象を持った。

 小町谷委員 弁護士からすれば長期拘束され自白が取られているという構図がある。報道が先行すると隠れてしまうのは取り調べの状況。否認事件は注意して供述を報じていかないと。結果的に違和感がある報道になったと思う。当時の報道が問題視される内容ではないと思うが、否認事件の取り扱いは、もう少し考えた方がいい。

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 ―公判では部下だった元係長が、元局長からの指示があったとの自らの調書を否定した。村木さん無罪までの報道は。

 小町谷委員 供述調書の内容が崩れていくのが詳細に報じられ、法廷の様子が目に浮かぶようで面白い記事だった。弁護団は、フロッピーディスクの日時の食い違いを問題にしていたが、当時、客観証拠と自白との違いを記者がどう認識していたのかは疑問に思った。

 姜委員 公判段階もさることながら、元局長は逮捕から保釈まで約5カ月もかかり驚いた。身柄拘置の期間を、取り調べの側で長く延ばせるのは疑問だ。

 小町谷委員 先進国でこんな長期拘束を認める国は、私はないと思う。弁護士の接見といっても時間はものすごく限られている。その間、容疑者にとって一番近い人は捜査機関側。そこでなだめすかしや誘導があるわけですから、容疑者はどっちが味方か分からなくなってくる。

 姜委員 (元係長が取り調べ状況や心境を記録した)「被疑者ノート」を取り上げた記事は良かった。心境の変化が時系列で分かった。どうして検察はあのような事件の構図を描いたのか。局長を立件する以上、最高検はゴーサインを出したが、公判では勝てないと考えなかったのか。

 出口修大阪社会部長 検事総長まで決裁をした。消極証拠を隠し、積極的な供述証拠だけで判断を仰いでいるという可能性があるが、本当はそこで厳しくチェックすべきだったとの点は今後も報道していきたい。

 ―改ざん事件を捜査している最高検の報道は。

 橘木委員 上司2人逮捕のとき、ある検事の「第2の村木事件になるかもしれない」との言葉を記事にしたのは良かった。2人は否認し、懲戒免職されるということだが、最高検が逮捕、起訴して無罪となれば司法は崩壊では。なぜこんなに最高検が慌てたのかというのが率直な疑問。

 出口部長 組織防衛という面があると思う。

 姜委員 特捜自体をどうするのか、検察組織はこのままでいいのか、これはかなり大きなテーマだ。

 小町谷委員 この事件が特殊だとは思わない。昔も重要な無罪の証拠を隠していた事例はある。悪質性は同じだ。根本にあるのは裁判にかかわる者の倫理観だ。今、最高検が何を考えているかというと大阪特捜部のせいにし、最高検は生き延びる、東京の特捜部は生き延びる―そういう構図を考えていないとも限らないので、ある意味、最高検に利用されないような報道も必要だ。

 姜委員 対等報道をするならば、国対個人になるわけだが、検察が立件した場合の事件報道では主任検事の名前を出すべきでは。組織に倫理があるわけでなく、倫理は人間に生じるのだから。それによって捜査が慎重になるのではないか。

 本多部長 特捜を含めた検察組織の改革はじっくり見ていきたい。主任検事は分かるが、報じることが多い警察の捜査段階では誰が主体か分からないことが多い。できればいいと思うが、一気には難しい。

証拠改ざん隠ぺい事件
 大阪地検特捜部は2009年6月に障害者団体の証明書偽造に関与したとして厚生労働省元局長村木厚子さんを逮捕、7月に起訴したが、大阪地裁は今年9月の判決で村木さんを無罪とした。その後、偽造事件の証拠品に当たるフロッピーディスクのデータが捜査に有利な内容に書き換えられていたことが発覚し、最高検は9月21日、証拠隠滅容疑で大阪地検特捜部の前田恒彦元検事を逮捕。10月には改ざんを知っていたとして犯人隠避容疑で大坪弘道前特捜部長と佐賀元明(さが・もとあき)元副部長を逮捕した。3人はいずれも起訴された。


【テーマ2】民主党代表選

読者と乖離―小町谷氏 政治主導掘り下げて―姜氏 危機意識あるか―橘木氏

 ―9月の民主党代表選をめぐる一連の報道について感想は。

 橘木委員 まずコップの中の争いをこれだけ報道して、投票権のない国民がどれだけ真剣に読んだか疑問がある。民主党代表選は今回を含めて14回。野党時代は構わないが、与党になれば即首相。首相の任期との関係で民主党はどう考えているのか、こんなことをやっていていいのかという危機意識をジャーナリストは持っていないのかというのが第2の疑問だ。

菅首相と小沢元代表

民主党代表選の街頭演説会で握手する菅首相(右)と小沢元代表=9月4日、東京・新宿駅西口

 井原康宏政治部長 この時期に代表選を行う是非についても報じたが、「次の首相」の政策を提示するのはメディアの責任と考えた。

 ―菅直人首相と小沢一郎元代表の主張、論戦の報道は十分だったか。

 姜委員 尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件でも政治主導が問われており、政治主導とは何かについてもう少し掘り下げて議論を深めてもらいたかった。また外交・安全保障の問題が米軍普天間飛行場移設問題だけに限定されてしまい、アジアとの関係など全般についてあまり議論されなかった気がする。

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 小町谷委員 非常にコンパクトにまとまっていて分かりやすかったが、たぶん読者は社会保障や雇用がどうなるかが最も関心事ではないか。経済や外交・安全保障などに関しては原則論が載っているが、社会保障や雇用で(2人の主張の)違いがいまひとつ分からなかった。

 橘木委員 小沢氏も昔は消費税アップを言っていた。「剛腕」と言われるが、財政や社会保障でぶれている。そうした指摘があまりないのは残念。小沢氏が政治家としてどういう役割を果たしてきたか、総括する報道があってもいい。

 井原部長 社会保障や雇用は連載の中で取り上げたが、それに特化した連載、特集を考えてもよかった。

 ―小沢氏がなぜ出馬したかなど、読者の関心に応える報道はできたか。

 姜委員 よく分からなかったのは鳩山由紀夫前首相の存在。ガチンコ勝負に至る過程で、鳩山氏を含め民主党内部で対決回避に向けた動きがどのくらいあったのか。得票数で見るとかなり伯仲していたが、論戦を聞いて票が小沢氏に流れることがあったのかも知りたかった。

 小町谷委員 私は小沢氏の出馬に驚いた。現職の首相が起訴される事態に陥る可能性があると。そういう人が出ること自体に反発があったと思う。報道を見ていると、菅首相より小沢氏を評価していると受け取れる。記者と国民の評価が相当違っている。報道と読者の間で乖離(かいり)がある印象だ。

 井原部長 読者との意識の違いという点は政治報道全般に対してかもしれない。有権者側から見た政治にも焦点を当てていきたい。

民主党代表選
 民主党トップの代表を決める選挙で、党籍を持つ地方議員や党員、年間2千円の会費を納めたサポーターも参加できる。立候補には20人以上の党所属国会議員の推薦が必要。選挙期間は告示日を含め14日間。任期途中で代表が欠けた場合は両院議員総会での選出が可能で、過去14回の代表選で党員・サポーターが参加したのは2002年と今年9月の2回だけ。今回は菅直人首相の無投票再選との見方もあったが、党運営に批判的な小沢一郎元代表が出馬した。

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