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第26回会議(自民党総裁選・新政権誕生、皇室報道)

首相のあいまいさ追及を 言論テロに厳しい姿勢必要

 共同通信社は七日、外部識者による第三者機関「報道と読者」委員会の第二十六回会議を東京・東新橋の本社で開き、三人の委員が「自民党総裁選・新政権誕生」と「皇室報道」をテーマに議論した。

 安倍新政権誕生をめぐる報道について、同志社大教授の浜矩子氏は、安倍晋三首相が靖国神社参拝の事実関係を明かさないことなどを挙げ「戦略的あいまいさのベールを打ち破るために切り込んでほしい」と述べ、安倍首相が言及を避ける問題を追及するよう求めた。

 前広島市長の平岡敬氏は、加藤紘一自民党元幹事長の実家放火容疑で右翼団体構成員が逮捕された事件に触れ、当時の小泉純一郎首相や安倍官房長官らの反応が遅れたことを「テロと戦うと言っているが全然戦っていない。追及すべきだ」と批判。「(メディア側も)言論へのテロをもっと厳しく批判すべきだ」と注文した。

 弁護士の梓澤和幸氏も「昭和十年代のテロが時代を危険な方向に引っ張った。メディアは抵抗の戦線を築いてほしい」と強調した。

 続いて秋篠宮妃紀子さまの男子出産と皇室典範改正問題を中心とした報道を議論。平岡氏は「天皇制の存続を含めた広い視野の議論がこの機会にされてもよい」と提言。梓澤氏は「象徴天皇制は負の歴史に対する反省に立っている。その点を歴史学者、憲法学者に聞けばよい」、浜氏は「典範改正問題の識者の意見を、男子出産となった今、もう一度掲載しては」と述べた。

【詳報1】 あいまいさ打ち破る報道を 広い視野の皇室議論提言

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第二十六回会議が七日開かれ、三人の委員が「自民党総裁選・新政権誕生」と「皇室報道」をテーマに議論した。

 安倍新政権をめぐる報道について、同志社大教授の 浜矩子氏は安倍晋三首相が靖国神社参拝の事実関係を明かさないことなどを挙げ「戦略的あいまいさのベールを打ち破るために切り込んでほしい」と注文。弁護士の 梓澤和幸氏は靖国問題の発言に絡み、加藤紘一自民党元幹事長の実家放火容疑で右翼団体構成員が逮捕された事件で「昭和十年代のテロが時代を危険な方向に引っ張っていったのと同じような危険性を感じている人は多い。そういう人に発言の場を与えてほしい」と指摘した。

 秋篠宮妃紀子さまの男子出産と皇室典範改正問題では、前広島市長の 平岡敬氏が「天皇制の存続を含めた広い視野の議論がこの機会にされてもよい」と提言した。

言論テロに敏感に―平岡氏 小泉流に乗せられた―浜氏  面白さの裏指摘を―梓澤氏

 ―小泉政治を総括した報道について感想を。

一礼する安倍氏

 平岡委員 小泉政権の負の側面に焦点を合わせた企画はタイムリーだったが、加藤紘一自民党元幹事長の実家が放火された事件の報道には注文がある。小泉純一郎前首相らが当初反応しなかったのは彼の歴史感覚の鈍さを表している。米国に同調し「テロとの戦い」を言いながら言論テロには鈍感だ。報道側ももっと重大な問題として取り組むべきだった。安倍新政権の針路の報道では、基地問題をどう解決するのかという問題意識が欠けていたように思う。

 浜委員 報道は小泉流に乗せられてしまった。批判的に切り込んでいても、(小泉流は)新風を吹き込んだというような色彩が入っている。小泉前首相が大嫌いな人と大好きな人が相互に否定し合う連載があると、いろいろよく分かってくる。知的懐疑精神に刺激を与えてもらうことを期待したい。

 梓澤委員 小泉前首相はメディアによって出発し、メディアによって送られた政治家だ。面白いままを伝えていくと、術中にはまり、しかも危険な方向性を止められない。この面白さは危ないぞ、と指摘するのが、メディアの責任ではないか。

 ―格差など経済面の功罪について。

 浜委員 小泉前首相は経済で言えば「北極に行く」と言いながら南極に行ったようなものだ。郵政民営化問題も、道路公団改革も実を捨て名を取るのがうまかったが、ごまかされる方も悪い。

 梓澤委員 竹中平蔵前総務相が「格差を言うのはさもしい」と言うのを聞き、「そこまで言うのか」と感じた。こういう表現にメディアが騒がないのは問題だ。市場原理主義にはじき出された不正規雇用、いわゆるニートの中には希望の見えない絶望がある。こういう中でナショナリズムが語られると、止まらない動きになる。

 平岡委員 地方では景気がいいという実感は全くない。自治体も火の車だ。格差が広がっている。東京の景気だけを見ていると、とても分からない。そこをもうちょっと掘り下げて報道してほしい。働いても楽にならない思いを若者に抱かせ、右傾化と共鳴して危険な方向に向かうのではないか。二世、三世議員には生活感覚がない。安倍晋三首相の所信表明演説でも庶民の本当の苦しさというものが分かっていないと感じる。

 ―八月十五日の加藤氏実家放火事件で、小泉前首相のコメントが出たのは二十八日になってからだった。共同通信として十分対応できなかった反省もある。

 梅野修政治部長 小泉前首相は夏休みで公邸にこもりきりだった。

 平岡委員 夏休みは理由にならない。報道機関の感度も鈍かったのではないか。戦前の歴史を見ると、こういうテロは歴史の転換点になっている。メディアがしっかりしないといけない。

 梓澤委員 昭和十年代のテロが時代を危険な方向に引っ張っていったのと同じような危険性を感じている人は多い。今ものを言わなければ生きている意味がない、という人が次々と現れてくる。そういう人に発言の場を与えてほしい。

 ―自民党総裁選報道については。

 梓澤委員 安倍首相にはNHK番組介入問題があるが、主要メディアは今回ほとんど伝えなかった。お互いの自主規制で、この質問が現場でぶつけられていないのではないか。

 浜委員 英国の政局も政権を禅譲する「出来レース」展開になっている。日本とよく似た状況だが、英国では国民が総選挙で次の政権の形を決めるのが民主主義ではないかとの世論が出ている。今回の総裁選も、国民(の意思)がどこにあるかと問い掛けてしかるべきだった。安倍氏の言葉はよく分からない。カタカナ語の一個一個の意味を説明させてほしい。メディアは靖国対応などで見られる安倍首相の戦略的あいまいさのベールを打ち破るために切り込み、宣戦布告してほしい。

 平岡委員 国民が参加できる首相選びではなかった。それでいいのか、という論点をもう少し報道してもよかったのではないか。マスコミは安倍氏の勝利を既定事実のように報道し、安倍氏断トツの流れをつくってしまった気がする。

 ―今後の安倍政権取材への注文は。

 平岡委員 著書「美しい国へ」の中で、地球市民は空想の世界だと、言っている。しかし、環境問題や核問題などの解決は一国ではどうにもならない問題で、地球的視野で物事を考えていくのがリーダーにとって一番大事だ。マスコミは地球市民的な感覚を持ち、安倍氏に環境問題への取り組みなどを問いただしてほしい。安倍首相は権力を維持するために妥協に妥協を重ねるだろう。時代の閉塞(へいそく)の中で勇ましい発言は若者に受けるが、自らの発言で自縄自縛に陥らなければいいが...。

 梓澤委員 偏差値の高い大学の優等生の中にも、そういう反応がある。そういう人たちが二十五―三十歳になって、小泉、安倍両氏のような政治家が出てくれば「おれたちが待っていた人だ」と感じる。メディアは、日本を危険な方向に引っ張っていくものが、彼らの内面でどう形作られてきたのか掘り下げてほしい。世の中を覆っている絶望みたいなものをぐっと掘り下げて、そこで何が見えてくるのか、それと政治の関係というようなことを報道してほしいと強く希望する。

 浜委員 グローバル時代とは何か、日本はどういう位置付けにあるのかを安倍首相に言わせた報道をあまり見ない。向こうからは語らない、聞いてもはぐらかしてしまうテーマに迫ってほしい。世論調査で安倍首相の人気が高いと報道されている。年齢、性別、背景、居住地など、安倍首相を支持する典型的な人物像を示すのもマスコミの役割だ。

 梓澤委員 安倍首相は五年以内に憲法を改正すると言う。すぐに出てくるのは国民投票法案だが、問題点も多く、メディアには相当研究してもらいたい。

 梅野政治部長 日本をどういうふうにもっていくのか信念が見えない。国会審議が深まれば、矛盾点が出てくると思う。

【詳報2】 学者の議論増やせ―梓澤氏 国民感情とずれ―平岡氏  安倍氏の考え取材を―浜氏

 ―紀子さまの出産を中心とした皇室報道の感想から。

 浜委員 英国は王室に関しては何もタブーがないようにやゆし、悪口をいい、批判する世界なのだが、それといかに正反対であるか非常によく見える。逆に、英国の王室はそこそこの愛着をもたれているが、こっちは非常に大事にしているが、そんなに親しみ深い存在でもない、そういう差を感じた。皇室典範改正の話は、出産すると分かり事情が変わったからと、政治の世界であっという間に棚上げされるという風に流れた。メディアの姿勢も結局そういう流れに乗ってしまった印象を強く感じる。棚上げは、ある意味では背信行為だが、そういう視点がなかったと思う。不満が残った。

 梓澤委員 何が公の市民として自分の考えるべき論点なのか、はっきりしない中でぱっと目を開かれたのは(懐妊報道直後に女系天皇について論じた)田嶋陽子さんのインタビューだった。彼女は共和制論者で、天皇制反対であると言っている。天皇制は絶対に動かせない不動の制度であると考えると、いつまでも考えがらせん状に回ってしまうが、これは相対的な制度で、国民の総意で廃止することもありうると考えるとかなりすっきりする。

 浜委員 男子出産となった今もう一度、田嶋さんにインタビューするなど、こういう論調を生かす必要はあると思う。

 平岡委員 いろんな新聞の見出しを見ると慶祝ムード一色になっている。本当にそういう慶祝ムードであったのかどうか。ちょっと現実から浮き上がっているんじゃないか。ご出産ドキュメントというような記録が必要なのか。メディアの思い入れと国民感情との間にずれがあるような気がする。

 お世継ぎプレッシャーと私の確立という面で悩んでいる東宮家の雅子さまに寄せる同世代の女性の同情めいた感情がものすごくある。家制度のシンボルとして天皇制、天皇家の世襲制度がある。憲法の男女平等と天皇家の世襲制度との矛盾を感じているんじゃないか。この辺の違和感をうまくえぐり出せないものか。取り上げ方は大変難しいが、天皇制の問題、存続まで含めた広い視野での議論がされてもいい。国民の総意に基づいて象徴天皇制があるわけだから、国民が論ずる材料を提供していってほしい。

 梓澤委員 メディア論として言えば、英国の王室報道と日本の違いというのは、民主主義のベースにかかわってくる問題だ。朝日新聞の阪神支局襲撃事件に如実に表れているが「諸君の報道は反日的である。よって断罪する」というのが阪神事件のメッセージだった。そこに通じる言いにくさ、書きにくさというのは、メディア側の問題として独自に存在していると思う。

 天皇制問題は、やる以上はそれこそ覚悟は必要で、メディアの皆さんが一行を書くのに相当議論し、手も止まりながら、あえて書くと、あるいは止めてしまうと、いうことがあると思う。今回も、うれしがっている人がいるということと不自由さとが同居して過剰報道が行われている。大問題だと思う。

 ―今回の皇室報道に当たって考えた点は。

 牧野和宏社会部長 多くの意見を多様な形で紹介する観点に立てば、量は多くてもやむを得ない。問題は中身。四十一年ぶり、皇位継承第三位の男子が誕生したというニュース性は過小評価するわけにはいかない。今回男子が生まれたことで天皇制そのものに関する国民的議論が止まってしまうことは避けなければいけない。いろんな形の記事を書いていく必要があるだろう。

 梓澤委員 象徴天皇制は、明治憲法体制で絶対不可侵とされた天皇制の負の歴史に対する反省として生まれた。その反省の意味を、歴史学者でも憲法学者でもいくらでも書いてもらえる。それがあっていま天皇制を論じているんだという記事が活字ではあってもいい。

 浜委員 皇室問題も皇室典範問題も安倍氏がどう考えているのか取材してもらいたい。

皇室典範改正問題
 皇室典範にある「男系」とは父方に天皇を持つことを意味する。愛子さまは男系の女子。もし父方に天皇を持たない男性と愛子さまとの間に生まれた子が即位すると、男女にかかわらず「女系の天皇」となる。皇室典範に関する有識者会議は、継承資格を「男系男子」に限定している現行典範を改正し、将来、女性や女系の皇族が皇位につくことを認めるとする報告書をまとめた。しかし、紀子さま懐妊後、改正案の国会提出は見送られ、悠仁さま誕生後、政府は報告書に沿った改正作業を見直す方針を固めた。

【詳報3】 自殺少年の匿名判断報告

 共同通信社は第二十六回会議で、山口県の工業高専で女子学生を殺害したとして指名手配され、自殺した少年(19)の名前の扱いや平壌支局の開設など三件について報告した。

 報道では、新聞と民放計三社が少年の実名報道に踏み切るとともに顔写真を掲載した。

 共同は自殺後も匿名とした。牧野和宏社会部長は「少年法の趣旨を踏まえると、少年の実名公表には慎重さが求められる。事件後に逃走して凶悪な犯罪を繰り返す可能性がある場合などは、実名報道することもあり得るが、その場合でも逮捕された時点で匿名に戻すのが原則だ」と述べ「死亡で事件の全容解明が困難になったことを考えれば、重大な事件であることや、十九歳という年齢などを考慮しても、死亡を契機にただちに実名に切り替える積極的な理由は見いだせないと判断した」と説明した。

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