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第14回会議(週刊文春の出版禁止問題とイラクの日本人人質事件)

司法介入招く報道に危機感 自己責任論に「不気味さ」

 共同通信社は二十四日、外部識者でつくる第三者機関「報道と読者」委員会の第十四回会議を東京・東新橋の本社で開き、週刊文春の出版禁止問題とイラクの日本人人質事件について論議した。

 日本総合研究所理事長の寺島実郎委員は、田中真紀子前外相の長女の私生活に関する文春記事について「率直な疑問を持つ。メディアは品格を考える必要がある」と司法の介入を招きかねない報道に対し危機感を強調。

 前広島市長の平岡敬委員は「言論の自由は守るべきだ」とし「報道の基準をどこに置くかが問題。権力スキャンダルをもっと暴くべきなのに、野性味を失っている」とメディアの在り方に疑問を投げかけた。

 明治学院大法科大学院教授の渡辺咲子委員は「あしきジャーナリズムでも言論、出版の自由は守らなければならないと信じていたので、出版禁止はショックだった。この問題をもっと取り上げるべきだ」と述べた。

 人質事件で寺島委員は、被害者の自己責任を問う意見が出ている点について「善意でやれば相手も理解してくれるという認識は国際社会では通用しない」と指摘。

 平岡委員は「被害者や家族に対する政府や一部マスコミの中傷に、日本社会の不気味な体質を感じた。国家とは何かという問題をえぐる報道がほしい」と注文を付けた。

 渡辺委員は「言葉が独り歩きしている。客観的事実を並べるだけでなく、自己責任とは何かを問い掛けるような報道が必要」と要望した。

【詳報1】 言論の自由、最大限尊重を 「国家」えぐる報道が必要

 共同通信社の第三者機関「報道と読者」委員会の第十四回会議が四月二十四日開かれ、平岡敬・前広島市長、寺島実郎・日本総合研究所理事長、渡辺咲子・明治学院大法科大学院教授の三委員が、週刊文春の出版禁止問題とイラク日本人人質事件について論議した。

 文春問題で寺島氏が「メディアも品格を考えないといけない」と注文を付けたのに対し、平岡氏は「良い言論も悪い言論も守るのが大原則」、渡辺氏は「言論、出版の自由は最大限尊重されるべきだ」と強調した。

 人質事件で寺島氏は「情熱に駆られただけの行動は本当の民間活動を危うくする」と指摘。平岡氏は被害者の「自己責任論」について「社会を不気味な体質が覆っている。国家とは何かをえぐる報道が必要」と述べた。

 また読者対応事例として二月の前回会議以降に読者から寄せられた配信記事への苦情や意見計六件を三委員に報告した。

権力スキャンダル暴くべき メディアには品格も必要

会見する文春の編集局長

記者会見で、声明文を掲げる文芸春秋の笹本弘一第一編集局長=3月31日午後、東京都千代田区紀尾井町の文芸春秋本社

 ―週刊文春の出版禁止の仮処分決定について。

 寺島実郎委員 一人の裁判官がこういう仮処分決定をできる危うさを再認識した。それとスキャンダルジャーナリズムの現状も問題だ。表現の自由の問題と混同している。メディアも品格を考えないといけない。

 平岡敬委員 良い言論でも悪い言論でも言論の自由を守るのが大原則。良い悪いを誰が決めるのか。上品な言論だけ守れとなると、政府に都合のいい言論だけ守れということになりかねない。記事内容は出版禁止をしなければならないほどのプライバシーとは思えない。

 渡辺咲子委員 あしきジャーナリズムでも言論、出版の自由は最大限尊重されるべきだ。出版禁止はショック。文春はやりすぎという冷たい反応が出てきたことも非常にショック。人質問題で消えてしまったが、大きな事件が起きればすぐに消える程度の記事内容だったのではないか。差し止めが必要でない何よりの証左ともいえる。文春問題はもう一度正面から取り上げる必要がある。

 平岡委員 図書館の閲覧禁止や売店の販売禁止といった自粛の体質は非常に怖い。

 ―この問題の報道をみると「長女の私生活」とする程度で、文春の記事内容にはあまり触れずに相当自粛していた。

 古賀泰司共同通信社社会部長 共同通信ではプライバシー侵害とされた内容をどう書くか議論した。最初は「離婚」という言葉を使わなければ何が問題なのか読者が理解できないので文春の広告を引用した。その後も、ことさら強調しなかったが必要な部分だけ使った。

 平岡委員 プライバシー侵害の訴えは今後増えるだろうが、その内容となる事実をどう書くかは難しい問題だ。

 渡辺委員 公開の法廷での訴訟に持ち込まれたら、問題となっている記事の内容を引用する形で正確な裁判報道をするべきだ。

 寺島委員 裁判を客観的に報道する責任はメディアにあるから、訴訟となれば事実関係が公開されるのはやむを得ない。国の言論統制は拒否しなければならないが、メディアも日本の言論文化の卑しさに厳しい視点を持つべきだ。

 ―田中真紀子前外相の娘が公人か私人かも一つの焦点だった。

 平岡委員 単純に公私を分けるのは難しい。結局、報道の基準をどこに置くかが問題。私はスキャンダル報道には寛容だが、弱い者いじめになってはいけない。本来は権力スキャンダルを暴くべきなのに、今のメディアは野性味を失った感じがする。

 寺島委員 ねつ造記事で名誉を傷つけたら問題だが、今回の文春記事は淡々と事実を書いている。人格を否定する内容でもない。事実公表だけでプライバシー侵害として報道できなくなるとメディアには重大な影響がある。

 渡辺委員 政治家になる可能性がある長女は私人でないという文春側の主張に共感するところもある。日本の政治家は家族を巻き込み、自分の子どもを政治家にしてきた。日本の政治は家族と切り離せない。政治家と家族の関係を掘り下げれば、面白い切り口になる。

 ―出版禁止処分を当然とする新聞社もあった。

 平岡委員 「言論の自由も大事だが、週刊誌も悪い」というけんか両成敗的な考えでは、人権を制限しようとする今の時代の流れに抗していけない。粘り強くこの問題を追求してほしい。

 寺島委員 司法は必ずしも客観的、公正なものではないということを問題提起するべきだ。名誉棄損への損害賠償の高額化などの背景に何があるのか。恣意(しい)的な司法判断をけん制する力をメディアに期待したい。

 渡辺委員 厳罰を求める犯罪被害者の声高な叫びに、多くのメディアが同調してきた。その刃がストレートに出版界に向いたのが文春問題だ。

週刊文春の出版禁止問題
 衆院議員田中真紀子前外相の長女の私生活に関する記事の掲載を予定していた「週刊文春」について、長女らがプライバシー侵害を理由に販売などを禁止する仮処分を東京地裁に申請、認められた。文春側の異議に対し、東京地裁は仮処分を妥当としたが、東京高裁は「重大で著しく回復困難な損害を被らせる恐れがあるとまでは言えない」と地裁決定を取り消し、仮処分申請の却下を決定。確定した。

【詳報2】 独り歩きした「自己責任」 社会覆う不気味な体質

 ―イラク日本人人質事件で自己責任が議論になった。

 寺島実郎委員 人質たちは、やむにやまれぬ情熱に駆られたのかもしれないが、国際社会にかかわるにはリスクと責任の自覚が不可欠。厳しくしないと、国家と一定の距離を置いて国際貢献しようとする人たちの立場も危うくする。

 平岡敬委員 ボランティアに自己責任が伴うのは当然。行政の手が届かない所で活動するので、あまり政府をあてにしてはいない。一方、日本の政府には民間の介入を嫌う体質がある。政府が自己責任論を持ち出したのは政権への打撃を回避するためだし、自衛隊撤退の声をつぶそうとの思惑からだろう。

 渡辺咲子委員 自己責任という言葉が独り歩きしている。国民を救出するのは政府の責任。自衛隊を派遣した以上、民間人が人質になることは予想できた。政府は、民間人のリスクや政府の対応方針を明らかにした上で、あえてそのリスクを負うかどうかの判断を求めるべきだった。

 ―事件が教えたものは。

 寺島委員 日本人には「善意で行動すれば相手も理解してくれる」「人道支援だから悪意を持たれるわけがない」というぼんやりした国際認識しかない。政府の選択が国民にもたらす意味をはっきりさせる報道が欠けている。

 平岡委員 人質は生還した喜びを表せず、うなだれて帰国した。彼らは軽率だったかもしれないが、ああいう若者がいることを世界に示したのは、ある意味で大きな貢献だ。政府や一部マスコミの自己責任論、家族への誹謗(ひぼう)中傷には日本人の心の貧しさを感じる。不気味な体質が社会を覆っている。

 ―政府の対応は。

 後藤謙次共同通信社政治部長 人質事件の直前にサマワ近辺に迫撃弾が着弾し、自衛隊撤退論に火が付くことを政府は懸念していた。事件発生直後は、外務省も救出最優先と言っていたのに、徐々に非難がましい空気が流れ、異口同音に自己責任を語り始めた。

 渡辺委員 首相が事件直後に「テロリストの卑劣な脅しに乗ってはいけない」と言った。イラクの反米勢力をテロリストと言っていいのか。政治家の言葉として非常に乱暴だ。

 ―メディアの報道について。

 寺島委員 本来議論されなければならないファルージャの民間人虐殺やモスク攻撃といった現実が伝わらなくなった。自衛隊派遣や日本の選択など本質的な問題が全部どこかへ消えた。メディアの危険性が感じられる。

 平岡委員 自己責任論などが出て事の本質が見えなくなってしまう。イラク攻撃の正当性とか戦場の現実といった原点に立ち返る必要がある。最後は国家とは何かという問題に突き当たる。国家とは何かをえぐり、国が国民の安全を守ってくれる存在かどうか問い掛けるような記事がほしい。

 渡辺委員 客観的な事実を並べるだけでは、流れに沿っただけの報道になる。官邸が自己責任論に動くと、そのまま報道され「自己責任とは何か」という問い返しはなかった。テロとは何か。正確に言葉を使い概念を正しくする努力が必要だ。

 ―共同通信は人質の首にナイフが突きつけられた写真を配信した。

 石黒武共同通信社写真部長 現実を直視するとの観点から配信、全国で三十紙が掲載した。

 平岡委員 三人が縛られて座っている写真で十分だと思う。

イラク日本人人質事件
 イラク入りしたボランティア活動家ら日本人男女3人が4月7日、武装集団に拉致された。カタールの衛星テレビ、アルジャジーラは8日、3人の映像と、サマワに派遣中の陸上自衛隊の「3日以内の撤退」を要求する犯人グループの声明を報道。3人は15日に解放され、18日帰国した。同月14日にもバグダッド郊外でフリージャーナリストら日本人男性2人が武装組織に拉致され、17日に解放された。

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